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———おもたかった。
「だめじゃないの」
あんなに大事そうにしているのに。
先ほど冗談まじりに彼のノートパソコンを叩いた事を
空が困った顔でとがめた。
「叩いて直すにしてもちょっと乱暴なんじゃないの」
「…」
問いただしてもむっつりと眉根をしかめるだけで太一は「ああ」とか、「うん」とか気の抜けた返事しか返してこなかった。
太一らしくもない。
そこから一つの可能性に思い当たった。
「…ねえ、もしかして、壊す気だった?」
するとようやく空の言葉に振り向き、ばれた?とへら、と笑った。
あまり皆の前で見せない、くたびれた笑顔だった。
「アレ、結構重たいじゃん」
「うん」
「歩いてる時はいいけど、走ってるときしんどそうだし、
役に立たないなら無い方がましだろう」
「…そうね。」
光子郎の大事にしているノートパソコン。
いつだったか、一度だけ持ち上げてみた事がある。
その時はその重さにとてもおどろき、同時に自分より頭1つ小さい光子郎が
それを持ち運んでいる事に驚いた。
だから、光子郎がみなから少しだけ遅れて歩くのは
決して人付き合いが苦手という事だけでないことは空だってわかっていた。
でも。
「でも、光子郎君向こうでもいつも持ち歩いてたし、大事な物なんでしょう」
「そりゃあ、向こうではそれでもいいけどさ」
言いかけて太一はまた眉根をしかめる。
ここであんなに重たい物を持って あるいて はしって。
襲われたとき、そんな事をしていて逃げ後れたら?
ころんで、すりむいた、痛かったね、ではすまない。
すまないのだ。
「ここでは、誰も守っちゃくれないんだよ。」
「…そうね、そうだけど。」
だからはやく手放してほしい。壊して、うらまれたって別にいい。
彼に何かあってからでは、遅いから。
でも。
「それを、一番分かっているのは、光子郎くんでしょう」
「…わかってるよ」
「…私、説得してあげられる自信、ないわよ。」
「俺だって、…説得できたら叩かねーよ。」
彼の本領が発揮される前の事だった。
*
「懐かしいもん持ってるな」
「太一さん」
見慣れた彼の手になんらかの機械が収まっているのはよくある事だけれど。
いつからか、時が流れるにつれて見かけなくなった、黄色と白の彼の相棒。
「娘が…しまっていたのを見つけて引っ張りだしてきたんです。
それで、これ持ってデジタルワールドいくって…」
言ってたんですけど。
そう、苦笑を浮かべる光子郎の腕にははしゃぎ疲れてしまったのか
すうすうと眠る彼の愛娘が。
小さな彼女に旧型の機械は重たかったのか、
最初のうちは良かったものの、途中で疲れてしまい、だっこをせがまれ、
結局光子郎が全部抱えるはめになったというわけだ。
「おもたい…」
「へん、ザマミロ」
「あ、ひどい。なんなんです」
「持ってやろうか」
そういって親切心で差し出した手をじとり、と見つめられる。
「…」
「なんだよ」
「だって太一さん、パソコン叩くんですもん」
「何年前の話だよ」
言って苦笑いする。
そうだった。物腰柔らかで、滅多に怒る事はしないけれど
こいつは意外と根に持つ男だった。
信用ねえなあ。
太一さんですから。
ひっでえ。
「あはは、うそうそ、お願いします」
「…しょうがねえなあ」
にんまりと笑みを浮かべ、
そうして太一は差し出されたノートパソコンをそっと受け取った。
「どうしたんです」
「ん?」
「たいちさん、うれしそう」
「べーっつにい」
「あっパソコン担がないでくださいよ」
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( かるくなったよ )
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