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振り向いちゃ駄目だ。
振り向いたら、帰れなくなる。
「…、かえっちゃうの」
敬語がとれてしまっているのに驚いてふりかえる。
熱で、めがうるんでいる。ああどうしよう。くちびるは曲がって、への字だ。
このまま玄関をしめたら、多分、こぼれてしまう。
いい年をした男に何を、と思うが。
どうしようもなく、かわいかった。
ぜったいにかえったほうがいい。まだ何もしていないうちに帰った方がいい。
と頭では分かっているものの、光子郎がぽつりと、寂しそうにいうもんだから
ついつい言ってしまった。
「帰って欲しくないなら、居るよ」
「!」
「おまえが寂しいなら、いる」
「…!」
さあ、どっちだ。
はく、と開いた口は言葉にならなかった
それから2度ほど口がまようように開くのにじれて、
玄関を1歩で戻り、吸い付く。
ちゅっ、というやけに可愛らしい音がして、自分でしたというのに顔が赤らんだ。
熱がうつったのかもしれなかった。
吸い付かれて、ゆるんだくちびるがひらいた。
「…寂しい、かえらないで」
吸い付いた衝撃からか、涙はこぼれてしまっていた。
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