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匂い(太←光自覚なし



「よう」
「太一さん」

パソコン部の活動を終え、部活帰りの太一に声をかけられた。
普段なら彼と僕の帰宅時間はズレているのだけど、どうやら僕は熱中しすぎたらしい。
部活中の太一はいつも楽しそうだったが今は楽しいというより、妙に嬉しそうだ。

「何かあったんですか」
「うん」

尋ねるとまたうれしそうにする。
聞いたこちらまで、つられてうれしくなるような笑みだ。

「お前、サッカーしてたな、今日」
「ええ、授業で…」
「見てた」
「ええ?」

確かに今日の体育はサッカーだった。
よりにもよって一番日が昇っていて、疲れている4時限目に。
比較的文系の多いクラスメイトも勉強のストレスからか半ばやけくそ気味に
走り回っていて、即席素人チームながらなかなか面白い試合になった。
のだが、この人は授業中に運動場なんて見ていて、ちゃんと授業を聞いていたのだろうか。
気になって隣を見ると太一がにやにやわらいを浮かべていた。

「なんです」
「いや」

にやにやを優しげな笑みに変えた太一は、いつの間にか友達から先輩の顏になっていた。

「久しぶりにおまえがサッカーしてるとこ見れて…なんか、嬉しかった」
「太一さん…」

小学生のとき、パソコン部へ移動してからサッカーをする機会は殆どなくなってしまった。
サッカー部主将に、自分がプレイしている所が好きだと遠回しに言ってもらい満更でもない。
そこまで会話しておいてからはっとする。

(僕、汗くさくないかな)

4時限目。日が散々と降り注ぐ中走り回ったせいでクラスの男子全員がくたくたの汗まみれになった。
全員がそうだったからきんきんとした女子からのクレームさえたいして気にしていなかったが、
今更、どうしてか太一の前でだと気になった。

(気になる)

そう一度思ってしまうと確認したくてたまらない。
太一が見てない間に制服の袖口をすん、と匂う。
母が洗ってくれた清潔な、洗剤の香りがする。ほっとしているとふいに隣の太一とばちりと目が合った。
見られていた。

「…なんですか」
「…いや」

なんでもないといいながら、ひくりと口の形が笑っていた。
改めて考えると、女の子のように気にしていたのが恥ずかしくなりつっけんどんに返した。

「なんですか、気にしちゃいけませんか」
「いや、いけないことないけど。ただ…」

くくく、と笑いを噛みしめる太一に言われて気が付いた。

「普通に考えて、地獄のサッカー練上がりの俺の方がやばいのに。
…おまえが気にしちゃうの」

彼のツボはそこらしかった。
確かにそう言われてみれば太一の方が格段に汗をかいたに決まっている。
けれどその理屈を通してしまえば、制汗剤スプレーだのなんだので努力している女子はどうなるんだ。

「それ、女の子に言ったら怒られますよ」
「でも、光子郎は男の子だろ」
「…ええ、そうですよ、そうですとも」

頼りない反論をしてしまい、遠回しに女の子みたい、と言われてる気がしてほんの少し頭に血が上る。
いやだな。なんで匂いなんか気になったんだろう。
早く帰ってしまいたい。
顔を俯かせたまま自然早足になる光子郎に太一が続ける。

「なら」

渋々顔をあげ、ふりかえる。
彼は後ろで立ち止まっていた。

「怒っちゃやだ」
「…」

急に口の中が乾く。
なんだ、それは。怒らせたのは自分なくせに、そんな可愛い事言って。
何から言っていいのか、少し混乱したくちは白旗をあげた。

「おこってなんか、いません」
「あれ?そう?」

匂いを気にする女子より、彼がかわいいなんて。
そう思ってしまった事にまた少し混乱した。


世も末である。



(無意識に、たいちさんを意識するこうしろう。
汗の匂いが気になるこうしろうがかわいいたいち。がかわいいこうしろう。)

「汗くらえ」
「うっわ、やめてくださいよ」

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